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有元美津世のGet Global!

厳格化される学生ビザ2024.02.06

 

先週、とうとう日本もデジタルノマドビザ(DNV)の開始を発表しましたね。租税条約を交わしている49ヵ国に限り、滞在期間は半年で、年収1000万円以上、民間の医療保険への加入が条件です。(※1)

オンラインのデジタルノマドのコミュニティをはじめ、あちこちで話題になっています。先月、開始された韓国のDNVよりも、コメントなどの数が圧倒的に多く、それだけ日本に興味のある人が多いのでしょう。

「半年なんて短すぎる」など、皆、好き勝手なことを言っていますが、大半の人が実際にノマドをしている人たちではなく、志望者または完全な外野です。(実は、デジタルノマドコミュニティに投稿する人でも、ノマド実践者よりもノマドを夢見る人の方が多い。) 

さて、ビザついでに、今回は、学生ビザについて書こうと思います。というのは、英語圏では学生ビザの発給を制限する国が相次いでいるのです。

 

カナダ

 

先月、カナダ政府が、今後2年間、留学生の数を限定すると発表しました。大学の学部の学生を年に3万6000人ほどに限るということで(大学院生は除外)、学生ビザの発行数が35%ほど減る見込みです。さらに、生活費の高騰に伴い、2024年1月から学生ビザ取得のために必要な資金が、1万ドルから2万ドル以上と倍になります。カナダへの留学を考えている人は、要注意です。

カナダ政府が留学生の数を減らしたい理由のひとつが住宅危機です。もう何年も、とくに主要都市では住宅価格が高騰していますが、家賃も、過去2年だけで2割以上上昇しました。カナダでは、2022年に初めて1年で移民が100万人以上増え、人口が4000万人と史上最多にのぼったのですが、住宅価格の上昇を移民の増加が原因とするエコノミストもいるのです。

そのやり玉にあがったのが留学生なのです。留学生は、2012年に27万5000人だったのが、2022年には80万を超えており、10年で3倍近くに増えました。その背景には、政府からの補助金カットにより、教育機関が、その分を留学生で賄おうとしたという事情があります。留学生の方が学費が平均して4倍ほど高く、とくにオンタリオ州では、(universityでなく)collegeの学費の75%が留学生から得られているとのことです。

留学生全体の4割ほどがインドからなのですが、とくにインド人留学生の多いオンタリオでは、インドの留学生からだけで営業収益が年20億ドルに達しており、州政府からの補助金を超えているそうです。


・永住権を得るための学生ビザ

インドなどの新興国では、先進国の大学への進学は、最終的に、その国で永住権(行く行くは市民権)を得るのが目的である場合が多いのです。そこで、インドで留学生をリクルートする下請け会社では「カナダに行けば10年以内に永住権が得られる」といった甘い言葉で勧誘するようです。しかし、実際に、10年以内に永住権を取得できるのは、留学生の3割ほどだそうです。

(日本の語学学校と同じように)カナダでも”幽霊学生”が問題になっており、2019年から学生ビザを取得した留学生の19%が、カナダの大学のどこにも在籍していないことが判明しています。違反が多いのはオンタリオの私立大学で、中には留学生の9割が在籍していないという大学もあるようです。お金儲けの大学は、留学生に合格通知を発行した後は、学生が入学しようがどうしようがどうでもいいのです。

移民当局(IIRC)では、長年、こうした実態を把握しながら、何も手を打たなかったらしく、やっと重い腰を上げたということです。

 

オーストラリア

 

オーストラリアも、2023年に純移民流入数(流出数が流入数を上回ったの差)が52万人近くに達したのですが、今年は、これを35万人に抑えたい意向で、これを学生ビザの発給削減で達成しようということのようです。オーストラリアも、住宅価格や家賃の高騰で住宅危機に見舞われていることが背景にあります。

日本と同様、勉強が真の目的でなく、(低賃金職で)働くために学生ビザを申請する外国人が問題となっており、今後、学生ビザの取得の条件や審査も厳しくなります。たとえば、既存のGTE(Genuine Temporary Entrant) に代わり、GST(Genuine Student Test)を新設し、「真の目的が勉強でなく勤労」の申請者を弾き出すようです。また、「専攻が申請者の将来のキャリアにつながるのか」といった視点で審査も厳しくなり、かつ英語のテスト(IELTS)のスコアも引き上げられます。

また、2023年、学生をしながら、再度、学生ビザを申請する人が3割以上増え、滞在を長引かせるための”visa hopping”も問題になっています。とくに職業教育訓練(VET)学校用ビザへの切り替えが増えているようです。

やはりインドからの留学生が問題で、昨年、インドの一部の州からは学生ビザの申請を受け付けないという大学まで出てきました。詐欺行為などの理由でビザ発給の却下率が25%と史上最高の割合に達していることが背景にあります。留学生をリクルートするインドの下請け会社が、手数料稼ぎのために同じ学生を複数の大学に送り込むといったケースまであるようです。

 

イギリス

 

イギリスでも、2022年に、学生ビザの発行数がコロナ前に比べ81%増え、純移民流入数が74万人を超え、イギリス政府としては増えすぎたので減らしたいようです。とくに留学生に帯同する家族が、EU圏外からの留学生数の25%を占めるようになったため、今年から、ポストドクの研究者以外、家族の帯同は認めないことになりました。その発表が響いてか、2024年1月からの学年では学生ビザの発給数が71%減少したそうです。

こうした理由でBig 4(カナダ、イギリス、オーストラリア、学費の高すぎるアメリカ)を避け、他の国を選ぶ学生が増えています。とくにインドでは、アイルランドやドイツが人気のようですが、留学生を増やす計画の韓国や台湾にも注目が集まっています。



(※1) DNV発給に関して「日本国内で税金さえ落としてくれればOK」と言っている人がいるが、租税条約とは二重課税を阻止するもので、デジタルノマドの場合、自国、または雇用主の拠点で課税されていれば日本では課税されないというもの。
年収1000万円は、現為替レートでは67万米ドルで、とくにアメリカでは高給ではない。

 

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この記事の筆者

有元美津世

大学卒業後、外資系企業勤務を経て渡米。MBA取得後、16年にわたり日米企業間の戦略提携コンサルティング業を営む。社員採用の経験を基に経営者、採用者の視点で就活アドバイス。現在は投資家として、投資家希望者のメンタリングを通じ、資産形成、人生設計を視野に入れたキャリアアドバイスも提供。在米30年の後、東南アジアをノマド中。訪問した国は70ヵ国以上。
著書に『英文履歴書の書き方Ver.3.0』『面接の英語』『プレゼンの英語』『ビジネスに対応 英語でソーシャルメディア』『英語でTwitter!』(ジャパンタイムズ)、『ロジカル・イングリッシュ』(ダイヤモンド)、『英語でもっとSNS!どんどん書き込む英語表現』(語研)など30冊。

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